『コロナ後の教育~オックスフォードからの提言~』を読んで

●大学に関する教育政策は、社会の焦燥感や危機感を大学に押し付けた「大学性悪説」を前提にしており、抽象的で耳障りの良い言葉を並べ立てた目標を掲げ、具体性に欠ける手段によって表面的対応・評価にとどまっている。

文部科学省は実態(現状の教育で何を達成してきたのか、何が得られなかったのか)をしっかり調査・分析し、「地に足のついた」政策立案を行うべき。

●教育は人類が築き上げてきた知を次世代へと伝達する「知の再生産」の過程であり、特に大学は、未知と向き合い、知識を主体的・批判的に再構成することで新たな知を創り出すことが求められる。

 

上記が本書から私が感じ取った要約です。

このブログの年明け投稿でも何回か書きましたが、新型コロナウイルス感染拡大を機に教育事情は大きな変化を迫られました。危機が訪れると国の行動に注目が集まり、全国の教育委員会・先生達もどうにかしてくれ、指針を示してくれと期待も高まります。(世間の注目度が高まったからか、コロナ前は殆ど教育関連の記事を見なかった印象の日経新聞でも、コロナ禍になってからは毎日1つは見るようになった気がします)

そんな中、国だって正解なんて分かるはずもなく模索しながらの政策立案だと思いますが、この本はそのような混沌とする現状にどのような「解」を示してくれるのだろうと興味を持って手に取りました。

 

書かれていることは尤もで、理想の政策立案の在り方、大学における学問追求の在り方だと思います。しかし、正直学者の方の主張というのはどうも昔から少し苦手で、どこか批評家、コメンテーターとして、それこそ「実態を無視した」提言になりがちなのではないかと思います。

というのも、マンパワーや一人ひとりが割けるエフォートには限界があります。官僚の数も限られています。新型コロナウイルスのような予見できない危機対応が発生すれば、その緊急性ゆえに時間もない中で早急な対応策の立案・決定・実施が求められます。現在の永田町と霞が関のパワーバランスについて良し悪しの結論を下すことは簡単ではありませんが、官僚達は国会会期中(少なくとも年間半年近く以上)は急な質問通告への対応や答弁作成に追われる他、国会関連以外でもあらゆるレクや資料要求、白書や政策文書の執筆照会、有識者会議やワーキンググループ・議員連盟といった会議体の議論内容検討やロジ調整等、日々目の前の業務を捌くだけでも精一杯の日々です。

そういう中で、この苅谷先生の指摘するような「現場での実践知の積み上げによる、実態に即した政策立案」をする余裕がどれ程彼らに残っているのか、どれだけの時間やエネルギーを生産的な政策立案業務に割けるというのか、そこへの配慮なしに「国が・・すべき」という議論をこれ以上繰り広げるのは、あまりにも他人任せではないかと思うのです。

 

また、知の生産を行う場として、大学での学問の追求の在り方についても、理想は置いておいて、現実は「人生の夏休み」としてインターンシップや部活動、留学など多様な経験をしてみたいという人が多いのは事実です。20台前半までの学生が多い中、様々な興味を持ち、社会に出るまでにあらゆる経験を積んで適性を見出したい、楽しみたいというのは自然な若者の感情だと思います。日本の大学は入るのが難しく、高校生は勉強漬けの人も多いため、よりその傾向が強いのかもしれません。

それも別に、悪いことだとは思わないんです。遊びたい時に遊び、また勉強したくなったら学校というフィールドに戻ってくる。「大学生は勉強すべき」「こうやって学問追求すべきだ」なんて決めつけられる必要はないんです。どの年代になっても学ぶ機会が保証されていれば、やり直しなんていくらでも効くのです。

高等教育について考えると、私の場合いつもリカレント教育に戻ってきてしまうのですが、社会(企業)が学び直しにお金を出しても良いという風土が早くできればなと思います。まあ最悪、自分の意思さえあれば一定のお金を貯めて通信制大学など学費の安いところに通うなり、どうとでもなります。

大学を巡る教育政策(研究はまた別かと)、また現場では知の創出といった抽象的「べき論」でなく、学生や社会のニーズに応える大学教育をどのように構築するかといったことを軸に考えていってほしいなと思います。

 

ああ、やっぱり小説以外は素直に受け取れないなあ・・と煮え切らないところもありますが、評論文には筆者だけでなく読者にも批判的思考がつきものです。価値観が合わないからこそ多様性が存在し、その中から新たな価値が生まれます。実際にこの本を読んで私は、解決策にはならないかもしれませんが将来のビジョンに繋がる新たな発想を得られたと感じています。

雑駁な文章ですみません、ありがとうございました!

 

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